第24回問06~問10の解き方

第24回キャリアコンサルタント試験学科試験問題を徹底解説!

問6.キャリアに関する理論

【B】理論家横断的に人名と理論の特徴を問う問題です。選択肢2のキャリア意思決定における社会的学習理論(SLTCDM)はあまり知られていないかもしれませんが、この選択肢自体は、第17回問7と同様で、渡辺先生の著書にも記されていますので、知らなかった方は確認しましょう。

正答:2

1.×:「完全に独立したタイプ」は不適切である。ホランドのRIASECの6つのタイプは、互いにまったく独立しているのではなく、理論的に見て内的関連性を持つ。【渡辺先生P76】

2.○:クランボルツの学習理論は、バンデューラの社会的学習理論を基礎におきながら、キャリア意思決定における社会的学習理論(Social Learning Theory Of Career Decislon Making:SLTCDM)として理論化された。【渡辺先生P136】

バンデューラが提唱した社会的学習理論を、クランボルツがキャリアカウンセリング(キャリア意思決定)に応用した、と捉えておく。

3.×:キャリア・アンカーは仕事を経験してはじめて少しずつ明らかになっていくものであるため、学生への進路支援において活用するのは適切ではない。【渡辺先生P162】

なお、「キャリア・アンカーを活用するには、才能と能力、動機と欲求、意味と価値」に関する3つの問いが有効であるとしている点は適切である。【渡辺先生P164】

なお、「意味と価値」は「態度と価値」と表現している参考書等もあるが、これまでの試験では「意味と価値」が出題されている。

4.×:予期せぬ偶然の出来事を自分のキャリアに取り込む重要性について主張しているのは、クランボルツである。【渡辺先生P145】

ホールがプロティアン・キャリア理論を構築した点は適切である。【渡辺先生P171】

問7.中高年期を展望するライフステージ及び発達課題の知識

【A】通常は問30前後に登場する、この出題範囲の問題が序盤に登場していることに驚きました。順序の違いのみで、内容的には通常の発達段階と課題の要点を確認する問題です。

実質的にはスーパー、レビンソン、エリクソンの発達段階に関する内容です。各段階の年齢、その段階での悩みや葛藤のイメージ、用語(フレーズ)を結びつけて考えてみましょう。

正答:4

1.×:これらは、解放(衰退、下降)段階の前の「維持段階(45歳~)」の発達課題である。【渡辺先生P47】

2.×:再探索や再確立といった再循環があるのは、スーパーの職業的発達段階における「移行期」におけるミニサイクルである。【渡辺先生P45】
ブリッジズは、「終焉」から始まる転機(トランジション)の理論で知られる。

3.×:この時期は、生活構造の「安定期(築かれる時期)」と「過渡期(変わる時期)」を意味しており、レビンソンの心理社会的な発達段階を表している。【岡田先生P78】

働くひとの心理学 

岡田昌毅先生の「働くひとの心理学」は、木村先生や渡辺先生の著書には記述がほとんどない、発達理論に関する記述が充実した参考書です。養成講座のテキストにそれらの記述のある方はマストとまでは言えませんが、キャリア理論全般についても、体系的にまとめられている良書です。

4.○:エリクソンの個体発達分化の図式(漸成的発達理論)における、老年期の「統合性」の内容として適切である。【岡田先生P82】

問8.中高年期を展望するライフステージ及び発達課題の知識

【A】正誤判断の難しい選択肢もありましたが、エリクソンが8段階であることを抑えおけば正答を導くことができる問題でした。

正答:3

1.○:フロイトの精神分析の立場から、性心理的発達ではなく、自我の統合的機能や子どもが社会的場面の中で発達していく側面を強調し、アイデンティティ(自我同一性)の概念を提唱した。【岡田先生P79】

2.○:個体発達分化の図式に示したエリクソンの発達モデルは、漸成説と呼ばれる。【岡田先生P80】

3.×:エリクソンの発達段階は8段階。人の生涯発達を心の中核部分の積み重ねの変化として捉え、心理社会的な自我の性質である8つの段階で表した。幼児期は前期と後期に分かれ、青年期の後に成人前期がある。【岡田先生P81】

5段階なのは、スーパーの職業的発達段階である(成長・探索・確立・維持・解放)。

4.○:各段階の発達課題は、人が社会的に生きていくうえで不可欠な能力、自我の力を表しているが、それぞれ正負の力が拮抗し合い、心のバランスが保たれている。【岡田先生P81】

問9.カウンセリングに関する理論

【C】アドラーの「権力への意志」が問われたのは初めてで、第24回対策総仕上げ模試でもアドラーを出題予想していましたが、「権力の意志」までは言及しておらず、残念ながら一歩及ばずでした。

なお、第17回試験で出題された「意味への意志」を知っていれば消去法でのアプローチができましたが、難易度の高い問題でした。

正答:1

1.○:「権力への意志」は、主要参考書には記載が無いため、ジル資料を参考を解説する。

優れた自分になりたいという、人の心の中にある優越性の追求のことを、アドラーは「権力への意志」と呼び、人は誰しも何らかの「劣等感」を持っており、それを補おうと努力する。

その努力には2種類がある。

一つは、「○○より優れたい、上に立ちたい」など、タテの関係が前提となった「優越への努力」であり、失敗は「敗北」とみなされる。

もう一つは、「誰かの役に立ちたい」、「共同体を成長させたい」など、他者と一体となった、ヨコの関係が前提となった、「完全への努力」であり、失敗は努力のステップとして「共同体の財産」とみなされる。

前者の「優越の努力」が強すぎると、メンタル不調や精神疾患を誘発することがあり、後者の共同体感覚を持って、劣等感を乗り越えようとすることが、アドラー心理学の特徴である。

なお、共同体感覚を提唱しているが、自分の人生を自分らしく生きるためには、共同体に合わせるのではなく、自己の主観や主体性を重んじ、他者からの評価を気にしない、「嫌われる勇気」を持ったうえで、共同体への貢献をすることが、人生の満足につながる、としている。【ジルP105などを参考に作成】

職業相談場面におけるキャリア理論及びカウンセリング理論の活用・普及に関する文献調査

当サイトでは通称、ジルや、ジル資料と呼んでいますが、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT:ジルピーティー)で発行している資料で、キャリア理論とカウンセリング理論がわかりやすくまとめられており、おすすめです。なお、PDFファイルは無料でダウンロードでき、移動時間等の学習に役立ちます。

2.×:構成的グループ・エンカウンターは、國分康孝によって提唱された。【木村先生⑤P311、⑥P410】

3.×:パールズはゲシュタルト療法を創始したが、「意味への意志」はフランクルの著書である。なお、この組み合わせは、第17回問9の選択肢3でも問われている。

4.×:交流分析は、バーンによって提唱された。【ジルP108】

後半の「自己分析・人間関係分析の手法である」点は適切。また、エリスは、問10にも関連するが、論理療法で知られる。

問10.カウンセリングに関する理論

【A】選択肢2のロジャーズの6条件や3のミハイル・エリクソンは難しいものの、「論理療法といえばエリス」は頻出であり、正答判断は容易な問題で救われました。

正答:4

1.○:精神分析の理論は、人間は無意識下に抑圧された感情などにより、神経症などの精神疾患を引き起こすと考えたフロイトにより体系化された。

2.○:ロジャーズのセラピーによるパーソナリティ変化の必要にして十分な条件(6条件)の出題は、第8回問28以来の出題。

主要参考書に直接の記載がないため、6条件を紹介する。

セラピーによるパーソナリティ変化の必要にして十分な条件(ロジャーズ:1957年)

1.2人の人間が心理的な接触を持っていること
2.第1の人(クライエント)は不一致の状態、傷つきやすい状態、または不安な状態にあること
3.第2の人(セラピスト)はその関係の中で一致している状態、統合している状態であること
4.セラピストはクライエントに対して無条件の肯定的配慮を経験していること
5.セラピストはクライエントの内的照合枠を共感的に理解しており、この経験をクライエントに伝えようと務めていること(内的照合枠は内的準拠枠ともいう)
6.セラピストの共感的理解と無条件の肯定的配慮が、最大限クライエントに伝わっていること

3.○:ミラクル・クエスチョンやスケーリング・クエスチョンなどを用いるブリーフセラピーは、ミルトン・エリクソンの催眠・心理療法から発展したセラピーである。【ジルP141】

なお、8つの発達段階で知られるエリクソンは、エリク・H(ホーンブルガー)・エリクソンであり別人である。

4.×:不合理な信念(イラショナル・ビリーフ)が状況の見方を歪めるという考えに基づく論理療法は、ユングではなく、エリスが提唱した。

なお、ユングは人生を4つの時期に分け、40~50歳前後を人生の転換期であると捉え、「人生の正午」と名付けた。

参考文献・資料

新版 キャリアの心理学―キャリア支援への発達的アプローチ渡辺 三枝子著(ナカニシヤ出版2018年)

働くひとの心理学岡田昌毅著(ナカニシヤ出版2013年)

職業相談場面におけるキャリア理論及びカウンセリング理論の活用・普及に関する文献調査(労働政策研究・研修機構2016年)

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